木寺一路
木寺一路

【協働先 観光 × まち】 演劇的工場夜景ツアー「ひかりとけむり」

北九州を象徴する工場夜景を、演劇で味わう。

関門海峡から洞海湾に向かう航路には、煌びやかな工場の明かりと風に流れる白い煙が続く。日本の高度経済成長を牽引した「北九州工業地帯」の工場夜景を間近で観ることのできる「工場夜景クルーズ」は、北九州の人気観光プログラムのひとつです。このクルーズの特別企画として関門汽船株式会社と北九州芸術劇場がタッグを組んで、地域資源を活かした新しいプログラムづくりとして製作した演劇的工場夜景ツアー「ひかりとけむり」が人気を呼び、2015年より毎年開催さています。

作品について

本作は、北九州固有のロケーションを舞台に、第一線で活躍するアーティストとコラボレーションして製作した演劇的工場夜景ツアーです。ナビゲーター(俳優)が、演劇で夜景をナビゲートしていきます。船上で語られる“物語”とギター演奏に身をゆだねて、新感覚の工場夜景ツアーをお楽しみください。作・演出を手掛けるのは、近年さまざまな地域で盛んに創作活動をおこない、その独自のまなざしで深く地域の物語を描き出す、ままごとの柴幸男。北九州を象徴する工場夜景を船でめぐりながら、街とそこに暮らす人々の記憶に思いを馳せていく物語です。

あらすじ

「かんもん」のボランティアガイド“小倉ひかり”と、クルーズ船に乗ってきた“謎のおばあさん”の2人のやりとりで展開していく物語。おばあさんは、姉との思い出の煙突を探しにやってきたようだが……。おばあさんの記憶の中に眠る、お姉ちゃんとの煙突の思い出とは?

過去の様子

作品ダイジェスト動画

アーティスト

作・演出

柴幸男(演出家/ままごと)

劇作家・演出家。「ままごと」主宰。「青年団」演出部所属。「急な坂スタジオ」レジデント・アーティスト。1982年生まれ、愛知県出身。2010年『わが星』で第54回岸田國士戯曲賞を受賞。東京の劇場から北九州の船上まで、新劇から小学生の学芸会まで、場所や形態を問わない演劇活動を行う。2012年に北九州芸術劇場プロデュース「テトラポット」の作・演出。2013年「瀬戸内国際芸術祭」より小豆島(香川県)での継続的な滞在制作を開始。島民や観光客を巻き込み、“その時、その場所で、その人たちとしかできない演劇”を創作上演している。2014年より『戯曲公開プロジェクト』を開始、劇団HPにて過去の戯曲を無料公開中。

音楽

青木拓磨

シンガーソングライター。合唱部の先輩後輩で結成されたバンド「パウンチホイール」、歌う精神科医の星野概念率いるコーラスグループ「星野概念実験室」、その街の歌や演劇を、その街で作り、その街で演じる「マーチ」、横浜港象の鼻テラスでのワークショップから生まれた「ゾウノハナ合唱部」など、人の声と声が重なる時の包まれ感を探して、活動中。

出演

五島 真澄

俳優、ダンサー、絵描き。「PUYEY」所属。
様々な演劇、ダンス作品や企画に携わる傍ら、自身もソロダンスや演出作品を発表。声・音・体の関係性、その場の空気や空間を大事にしている。「PUYEY」では美術、音楽も担当。ギターとカホン、その他様々な楽器を操る。#mgdrawingsのハッシュタグとともに日々ツイッターにイラストを投稿中。

高山 実花

学生時代にコントユニット「モンブラン部」を結成。同ユニットの活動休止を機に拠点を北九州へ。北九州芸術劇場プロデュース『彼の地』『しなやか見渡す穴は森は雨』、ブルーエゴナクやバカボンド座などに出演するほか、モノレール公演や船上で行う演劇的工場夜景ツアー『ひかりとけむり』といった乗物演劇にも縁が深い。

高野 由紀子

1988年生まれ、福岡県行橋市出身
2006年自宅劇場『守田ん家。』を拠点に活動する、演劇関係いすと校舎に入団。飛ぶ劇場、ままごと、北九州芸術劇場のリーディングセッションやプロデュース公演にも多数出演、子ども向けWSのアシスタントも務める。アイスだいすき。

柴幸男インタビュー

─今年、再々演を迎えた柴幸男さん作・演出による演劇的工場夜景ツアー『ひかりとけむり』。3年目を迎えていかがですか?

柴:最初は、船の上で演劇をすること自体、可能なんだろうかと思っていましたが、まさか3回目を迎えるとは…(笑)。海は荒れる日もあれば凪の日もあるし、すごく寒い日もある。だいたいのパターンが経験できたくらい船には乗り慣れたし、船の上でも演劇はできる、と自信を持って言えるようになりました(笑)。

─初年度にはロケハンとして通常運行している夜景鑑賞定期クルーズに乗船されたそうですが、その時の印象は?

柴:夜景がすごく綺麗だったので、まずそこはちゃんと伝えたい、と思いました。僕自身が乗ってみて、あそこに見えるのは何の工場で、何が作られているのか。これまでどういう歴史があったのか。そういうことを知りたいと思ったので、「この土地にまつわる芝居」であることを大事にしようと思いました。あと、このエピソードは作品のベースになっているんですが、案内役のナビゲーターの方がとにかく印象的で(笑)。地元の方がボランティアでガイドされているんですが、何を言っているのかよく聞き取れなかったり、帰りの航路で間がもたなくなると「ここで一曲」と突然、第九だったかエーデルワイスだったか、まったく関係のない曲を歌い出したり。それがすごく面白かったので、物語の登場人物の一人をナビゲーター役にしました。物語は、生き別れて離ればなれになった二人姉妹の話。最初に乗った時に、お話がすぐに思い浮かんだのを覚えています。この夜景クルーズは、観客が船に乗っている間ずっと演劇が続くわけではなく、工場や夜景を見るだけの時間もあれば、演劇を観る時間もある。1階と2階デッキは自由に往き来できるので、お客さんがどちらを選び何を見るのか、僕にはコントロールできない作品でもあります。たとえるなら、リアルタイムで見聞きする美術館のオーディオガイドみたいな感じでしょうか。この船に乗っていること自体であったり、工場の夜景だったり、天気が良ければ見える星空だったり。それらがたまたま俳優がしゃべっている言葉や物語とリンクして、一瞬でも何か不思議な感覚を味わってもらえたら、と思っています。


─今年は、晩春から初夏にかけての上演になりました。おすすめの楽しみ方などはありますか?

柴:帰りの航路で、ほとんど工場夜景も終わって、何もすることなく海の上を滑るように帰っていくだけの“魔の時間帯”があるんですね。僕が勝手にそう呼んでるんですけど(笑)。その時に、あえて2階の甲板デッキにあがる。そこで周りの夜景と夜の海と空を眺めながら、俳優がしゃべっているのをぼんやり聴くのが僕はすごく好きで。冬は少し寒かったですが、今年の初夏のクルーズでは気持ちがいいと思うので、ぜひ2階で楽しんでみて欲しいです。

─柴さんにとって、北九州のまちのイメージは?

柴:物語を描く上で、八幡製鐵所の歴史なども調べたんですが、工場の話をすれば、必然的に街の歴史になっていく、というのがすごく面白いと思いました。僕は何だかんだで年に1回くらいのペースで北九州に来させていただいていますが、都市の規模がきゅっとしていて、コンパクトシティがうまく機能している印象があります。劇場が取り組んでいる地域でつくる企画も、面白いですよね。商店街やモノレール、航空会社、スタジアムなどと、演劇やアートが一緒に組んで何かをする。こんなに密着したエリアでいろんな企画ができるなんて、いい街だなと思います。

─柴さんは近年、小豆島や横浜などの地域や公共空間で、“その時、その場所で、その人たちとしかできない演劇”づくりにも取り組んでおられますね。

柴:はい。小豆島は今年で5年目。小豆島町の『醤(ひしお)の郷(さと)+坂手港プロジェクト』に呼ばれて島に行き、港に出逢ってしまった。それがきっかけでした。当時は、坂手港に神戸からの航路が16年ぶりに復活して間もない頃。まだ整備も進んでおらず、最初はその何にもなさに驚いたくらいでした。250世帯くらいが住んでいる港なんですが、とても静かで、演劇などは存在したことがなかったであろうまち。ここで何かやってみたい、と思ってしまったんですね。そこから旧/坂手幼稚園(現/世代間交流センター)を拠点にいろんなことをやりました。港町を散歩しながら演劇を体験する『おさんぽ演劇』や『紙しばい』。2015年には、統廃合になる高校の古い体育館を劇場に仕立て、『わが星』のツアー公演もやらせてもらいました。
でも、すべては偶然、だったんです。ホームページの「ままごとの新聞」にも書いたんですが、実は劇団として「このまま東京拠点でいいのか?いかに劇団を運営していくのか?」という問いをずっと抱いていたんです。どこかの街や劇場と長期的に組むとか、何なら劇団員ごと移住するとか。そういう運命の場所のようなものを探しながら、日本中をツアーしていた時期もあったんですね。そして辿り着いたのが、たまたま声をかけられて訪れた、小豆島だったという…。

─そうした、地域やそこにある場所で創る魅力は何でしょうか?

柴:まずお客さんと近いですよね、良くも悪くも。これは『ひかりとけむり』の船上でも同じですが、お客さんの顔がもろに見えた状態でやることになる。そうすると、演劇をやるのと同時に、僕らも何かを受け取っている─というか、僕ら自身も演劇を観ているような不思議な感覚になることがあります。一緒に何かを創っている感覚になったり、その人の生活や歴史のようなものを、僕らも上演している最中にどんどん吸収しているような印象。もう一つ、僕らが東京の劇場で待っていても、絶対にこの人たちは僕らの前に姿を現すことはないだろう、という人ばかりと出会うわけです。それは何だか愉快というか、不思議な魅力がありますね。小豆島で言えばたまたま僕らの「おさんぽ演劇」に通りかからなかったら、この人は演劇にすら触れることがなかったかもしれない。それは船の上でも同じなんですが、まったくの偶然が重なりあい、すれ違っただけのようで、そうではない。偶然に身を任せてみるのも面白い、と思うようになりました。

─劇場で創る作品と地域で創る作品。違いはありますか?

柴:モードは切り替えていると思います。劇場で創る時は、自分の作品を創るというある種の作家モード。今回の北九州の夜景や、小豆島の風景の中で創る場合は、作家というよりもデザインというか、その場所にあるものを引き出して、並び替えて編集しているような感じですね。まずはとにかく、よく観察します。「あれは何だろう?」と気になったものは基本的に無視せず、物語の中に取り込んでいく。『ひかりとけむり』の場合も、僕なりに気になった北九州の工場夜景を編集して創った感じです。
また、劇場ではある程度観客の視線をコントロールすることもできますが、野外、ましてや船の上であれば、人間は興味のある方に自然と目がいきますからね。俳優が何かやっていても、すごく大きな煙突があればそっちを見たくなりますし、天候によって煙突が見えなければ別のものに目がいく。観客も船内を動けるので、ここは絶対に観てほしいと思っても、コントロールはできない。でも、僕はそういうのも好きなんです。たとえば「今は工場夜景を見たい」「ちょっと別の考え事をしたい」とか、お客さんが意図的に離れたり、物語に近づいたりできる。そうした距離感や間、制約のない自由さは、大事にしたいと思っています。

─ 船に乗っているのか、演劇を観ているのか。夜景を見ているのか、星空を見あげているのか。観客なのか、それとも自分も作品を構成している一員なのか…さまざまな境界線が夜の海の上に溶けこんで、何とも不思議で心地よいものに抱かれる演劇的工場夜景ツアー「ひかりとけむり」。人々の記憶に残るわがまちのアートレパートリーがまた一つ増えました。ありがとうございました。(インタビュー・文/重岡 美千代)

協働団体

関門汽船株式会社

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