ここは温泉地の旅館なのか、それともサウナなのか。とにかくロビーでは男たちがビールを片手に馬鹿話を繰り返している。可愛い経理課の女性のこと、会社を巡る黒い噂のこと、そしてお互いの武勇伝。陽気な話声は続いている。しかしどうも様子がおかしい。大体、彼らは自分たちがどうしてここにいるのかという記憶が欠落している。そう、気が付けばそこにいるのだ。
中の一人が帰ろうとするが、ロッカーのカギは開かない。従業員に聞きに行くと帰る事は出来ないという。皆は怒り出す。と、従業員からは意外な答えが返ってくる。「ここは地獄でございますから・・・・・」
地獄への道のりは長い。険しい道を通り三途の川を渡る。そこで服をはぎ取られ受付を済ます。そう考えると思い当たることもある。ここに来るまでに川らしきところも渡ったし、服もはぎ取られたのだ。となるとここは地獄の受付なのか。
彼らの罵倒が始まる。なぜ、地獄へ来てしまったのか。話す中でだんだん彼らの裏側が見えて来る。もう戻れない。彼らが選択できることはただ二つ。いつまでもここに留まるか、そして地獄である扉の中へ進んでいくか。
馬鹿らしく陽気だった会話は、醜いものへと変わっていく・・・・・。
土田英生氏より
幾多の喜劇を創作して来た中で、チェーホフの作品から触発されることが多くあった。2003年ロンドンへ留学する前にMONOの特別企画として「チェーホフは笑いを教えてくれる」を上演した。これは一幕物をアレンジしてコント集の形で発表した。
2003年から一年間ロンドンへ留学した際、本場であるということもあり、否応なしにシェークスピア作品に触れざるを得なかった。演劇本来が持つ、虚構性にチェーホフと違った魅力を感じた。そして、帰国後、シェークスピアを題材にしようと企画したのが2005年の「衛兵たち、西高東低の鼻を嘆く」という作品だった。これまでの具体的な状況の中で展開される会話劇とは趣の異なる、やや抽象性を帯びた作品になったと思う。
そして、この2作品を通じて得られた手がかりを元に、新たな形で作品を作りたいと考えるに至った。状況は極端に抽象的に、そこで展開される会話は限りなく具体的に。とにかく、絶望感溢れる喜劇として描き出す。
作・演出
土田英生
出演
水沼健、奥村泰彦、尾方宣久、金替康博、土田英生
スタッフ
舞台監督/鈴木田竜二、中村貴彦 舞台美術/柴田隆弘 照明/福山和歌子(真昼)
音響/堂岡俊弘 衣裳/飯室亜希子 企画製作/キュカンバー・MONO
お問い合わせ
北九州芸術劇場
TEL 093-562-2655